「桜門春秋」座談会
産官学連携に新時代
始動するTLO 〜その課題と展望〜


大学等技術移転促進法のねらい

石井広報部長 本日はお忙しいなか、本学広報部が企画いたしま した座談会にご出席くださいまして、誠にありがとうございます。本日の 座談会のテーマは「産官学連携に新時代 始動するTLO−その課題と展 望」でございます。そこで、昨年TLO(技術移転機関)として通産・文 部両省に承認されました四つの機関と、その主管省である通産省よりご出 席いただいております。なお、座談会の進行は株式会社大和総研産学連携 事業室コンサルタントの西村様にお願いしております。西村様、よろしく お願いいたします。

西村 大和総研の西村でございます。よろしくお願いします。 昨年、大学等技術移転促進法が成立しまして、技術移転機関TLOの活動 が本格的に始まりました。本日は、この政策を推進されている通産省および 日本の先駆的なTLOの代表者の皆さんに、TLOの課題と展望について大 いに語っていただきたいと存じます。まず、最初に法律制定の背景と政策の ねらいについて、通産省の本部課長にお話していただきたいと思います。

本部 もう皆様ご承知のことだと思いますが、政策の背景や目的につい て簡単にご紹介させていただきます。現在、わが国の経済は非常に厳し い状況におかれています。これはアメリカが一九八〇年代初頭に同じよ うな経験をしたのですが、現在のわが国の状況は当時の米国以上に構造 的な問題があるのではないかと、通産省では考えています。例えば、日 本とアメリカの違いを考えたときに、わが国の大学にはたくさんの研究 資源や人材が眠っていて、産業界に十分活用されてこなかったのではな いか。これに対してアメリカでは一九八〇年以降、大学から生まれた技 術がベンチャー企業のみならず、中小企業、大企業にまで幅広く活用さ れている。あるいは大学自身から新しい企業が生まれ育っている。そこ に大きな差があるのではないかと考えました。
 具体的に説明させていただきますと、研究者の数はアメリカ百万人、 日本は七十万人ぐらいです。それが大学にどれくらい在籍しているかと いうと、日本では三分の一強の二十五万人、アメリカでは一三%の十三 万人ぐらい。研究資金は日本についていえば、わが国全体の研究資金の 二割強に当たる三兆円以上を大学で使っています。ところが、産業界、 ひいては社会に貢献する新しい技術がどれだけ生まれてきたかというと、 ずいぶん疑問があると考えられます。一方、アメリカでは、それを特許 という面から見ても非常に大きな数字になって表れています。例えば、 米国の大学技術移転機関(TLO)の組織であるAUTMというところ から出ている「ライセンスインサーベイ」の九六年版を見ますと、九六 年だけで大学から特許が三千二百六十一件申請されていて、その年度に 二千九十五件が特許として成立している。さらに大学から二百四十八の 新しい企業が生まれていて、どちらも対前年比で一〇%から一五%ぐら いの伸びになっています。
 また、大学から生まれた研究あるいは研究から派生した産業というも のを見ても、投入された資金を上回る約三兆円の経済効果が出ています し、雇用という面から見ても二十万人ぐらいの雇用が行われている。
 アメリカのこのような状況と、日米の格差は構造的な問題であり、何 とかしたいというのが大学等技術移転促進法のねらいです。
 つまり、大学での研究を産業界あるいは社会への貢献につなげようと いうわけです。
 それから、この法律の第一条に書いてありますように、大学は産業界 のニーズ、あるいは社会のニーズをうまくとらえて、新しい研究のアイ デアに結び付けていただく、あるいは学術の活性化につなげていただき たい、という両方のねらいがあるのです。


このページの先頭へ

各TLOの設立の経緯と現状

西村 いまご説明いただきましたように、非常に意義のあるTLOです が、設立には皆様かなりご苦労なさったことと思います。設立の経過と 各TLOの理念や特徴について順番にお話ししていただければと思いま す。まず、東北テクノアーチの渡邉社長から……。

渡邉 それでは、東北テクノアーチの設立の経緯についてお話しさせて いただきます。東北大学は技術の開発、その技術の産業化ということで は、長い伝統をもっています。例えば、本多光太郎先生のKS鋼の発明 は、今から八十年も前のことですが、先生はその特許のライセンスをす べて地元の企業に寄付されました。それによってできた会社・東北金属 は現在でも活動しています。また、俗にいう八木アンテナ、指向性短波 アンテナも昭和の初め、当時工学部長だった八木秀次先生の発明です。 八木先生がおつくりになった電気通信研究所は、その後、岡部金治郎先 生のマグネトロンの発明、岩崎俊一先生の垂直磁化膜の発明、西沢潤一 先生の光通信、半導体の研究につながっています。こうした伝統に支え られて、東北大学では特許の取得については非常に積極的です。学内の 発明委員会にかけられる特許発明は毎年百四、五十件に上ります。しか し、その中で本当に社会に役立つべく企業にトランスファーされたもの は、おそらく四分の一以下ではないかと思います。そこに、われわれが 努力しなければならないことがあるのではないかと思います。
 平成十年四月に、新産業・新技術の創出を目指す「未来科学技術共同 研究センター」が、東北大学の学内共同利用施設として開設されました。  このセンターは、先に述べたように東北大学の開学以来の独創性と、 世界をリードする研究成果によるこれまでの産学連携の実績と特徴を活 用し、産学相互の一層の啓発により、新製品の創製、新技術の開発、新 産業の創出を目的としており、言うなれば、このセンターは、東北大学 に蓄積された知的資源をベースとして、外部との共同研究を積極的に行 い、新産業の創出に貢献しようとするものであり、科学技術創造立国の 中核としての役割を果たすことが期待されております。
 このセンターは、こうした目的を遂行し、キャンパスで産学共同研究 を促進するために、リエゾンオフィス(LOD)と、インダストリー・ クリエーション・セクション(ICS)の二つのセクションを設置して おります。
東北テクノアーチ

 このうちLOD(開発企画部)は、研究課題を見つけ、プロジェクト をコーディネートするための機関であり、ここでは研究者のコーディネ ート、科学技術情報のデータベース化、さらに技術移転や特許取得など の支援サービスを行うTLO(技術移転機関)との連携などが行われ、 専任教授一名(井口泰孝教授・副センター長)と兼務教官から構成され ております。このTLOの機能を具体的に行う組織として発足したのが、 株式会社・東北テクノアーチで、活動内容については後述致します。
 もうひとつのICS(開発研究部)は、世界的な研究者を教育義務か ら解放し、開発研究に専念させ、エリート集団によるプロジェクト研究 を推進するための機関であって、国内外からの客員教授のほか、ポス ト・ドクトラル・フェローや産業界からの研究員等を活用して開発研究 を行い、また研究員については、共同研究する企業からの資金、各省庁 の提案公募型予算、ベンチャーキャピタルの投資なども活用することに なっております。現在、九名の教授がプロジェクト研究の担当として決 まっており、任期は五年で、現在は各研究者の旧来の所属研究機関で研 究開発が行われておりますが、本年度中に、青葉山キャンパスに新しい センター施設が建設されます。
 東北テクノアーチは、このICSの研究成果のみならず、東北地域の 国立大学、工業高専校を対象として、その研究成果を特許化して、その 特許を企業にトランスファーしていく、そこから出てくるロイヤリティ を大学と研究室と発明者本人、それから一部はわれわれがいただくとい う考えから、ロイヤリティの勧誘の仕事をやる。東北テクノアーチはこ ういう構想でスタートしたのです。

西村 ありがとうございました。続きまして先端科学技術インキュベー ションセンターの佐野取締役から、設立の経緯とTLOの特徴について ……。

佐野 長い会社名なものですから、頭文字CASTIをとって、キャス ティと呼んでおります。まず設立の経緯からお話しさせていただきます。 東京大学に先端科学技術研究センターという研究所があります。その中 に、知的財産権大部門という、特許とか意匠・商標とか、いわゆるイン テレクチャル・プロパティといわれるものを専門に研究する部署が平成 九年にできました。その研究テーマの一つに、知的財産インキュベーシ ョンがあります。つまり大学で生まれた発明を産業に結び付けていくこ とを研究するわけです。しかし、この研究には実際の技術移転の実務が 伴わなくてはなりません。大学で発明された技術が実社会に出ていって、 新しい製品ができたとか、新しいサービスが生まれたとか、実際に検証 された実例がなければ、学問にならないわけです。これをするためには、 やはりそういった組織をつくらなければいけない、ということがまず出 発点としてあった訳です。次に、東京大学の中でも、多くの教官・研究 者が自分の発明をより効率的に世の中に出していきたいという希望を持 っておられる、ただそのためには今までの仕組みでは十分でないという 不満があります。特に、米国の大学にいたことのある研究者などは、な ぜ日本の大学にはリエゾンオフィスやTLOがないのだという基本的な 疑問があると思います。そして、いろいろ検討の結果、産学連携のリエ ゾン、技術移転のための組織を大学人が自ら作ろうということになって、 株式会社キャスティが設立されたのです。
CASTI

 次に、キャスティの理念についてお話しさせていただきます。キャス ティの理念は三つあります。第一は、大学としてのアカウンタビリティ の確保ということ。大学には科学技術基本法に基づいて、国民の税金が 研究費として入ってきますが、その注ぎ込まれた研究費を大学がいかに して社会に還元しているか、大学自身が説明できる、これがアカウンタ ビリティということです。第二は、知的創造サイクルの確立です。これ は、大学における発明が社会に出ていって、新しい産業を創る。その産 業の収益から大学は発明の対価を受ける。その対価を基に大学はさらに 研究を発展させていく。このいい循環ができると、大学の研究は伸びる し、日本の産業も発展していく。こういったサイクルを創るための組織 にしようということです。第三は、公正なルールの設定とマーケット重 視の経営姿勢ということ。大学の先生は、個人でいろいろな企業とお付 き合いがあると思います。この場合、やはり力関係というものを考えま すと専門のスタッフがいる企業が有利になってしまいますので、大学の 先生が公平なルールを基に正当な対価を得てきたかというと、必ずしも そうとは言えない。ですから、そこにやはり専門家の介在が必要だと思 いまして、キャスティはそういった面をお手伝いする。また、マーケッ ト重視の経営姿勢ということは、従来、大学は敷居が高くて企業の言う ことをなかなか聞いてくれないが、キャスティは大学のことも知ってお り、市場における企業の声もわかったうえで両者を調整していくことが できます。つまり、われわれ自身が企業ですので、大学と企業との間の リエゾンについてのサービスを充実させることが、自身の存在理由とな っているわけです。
 最後に、キャスティの特徴について説明させていただきます。これに は四つありまして、第一は社会のインストラクチャーとして知的創造サ イクルの要となり、営利追求を目的としないことです。これはTLOに 関わる人間が常に考えておかなければならないことだと思います。特に 国立大学の場合は税金を使って研究しているという観点から非常に重要 なことです。第二は、中立性・公共性を重視し、特定の企業と結び付か ない、そのために特定の企業の資本参加を許さないということです。こ れは、株主資格を東京大学の教官に限ることで達成されています。第三 は、会員制度を採用し、会員に対して優先的にマーケティング活動を行 うということ。これは最近どこのTLOでも採用されて、うちだけの特 徴ではなくなりましたが、会員制度を言いはじめたのはキャスティが最 初だと思います。第四は、キャスティは医学部における付属病院と同じ 性格をもつ会社である、ということです。つまり、大学において知的財 産権の研究者にとって実証研究の場となるという特徴をもっています。

西村 引き続きまして、関西ティー・エル・オーの大野社長に、設立の 経緯についてのご説明をお願いします。

大野 大学の研究成果を社会で生かして、新しい企業や事業を創生し、 その果実の一部を大学に還元して、大学の研究を発展させるという「知 的創造サイクル」の考え方、このTLOの基本的な考え方については、 いまお二方のお話でだいたい尽きているように思いますので、関西ティ ー・エル・オーの設立の経緯についてお話しさせていただきます。実は 一九九二年に、大阪ガスが京都にあったタンクの跡地に京都リサーチパ ークというのを作ったのです。これは産学連携の活動をしようという趣 旨で作られたのですが、その前の八九年ごろから京都大学をはじめ関西 の大学に産学をもっとやりたいという先生方が増えてきた状況がありま した。一方では、まだ京都大学には産学ということにアレルギーをもっ ている先生が多くて、産学というと軽蔑の目をもって見られるというこ ともありました。私立大学でも、特に立命館大学とか同志社大学とかは 産学に対するアレルギーが強くて、なかなか産学に取り組めない大学が 多かったのです。ところが、アメリカの様子を見ていると産学をやらざ るを得ないというような雰囲気が出てきまして、だんだんそういう先生 が増えてきたのです。
 京都はベンチャービジネスで有名になっている企業がありまして、京 セラ、ワコールなど日本を代表するベンチャーが興っています。そこで 産学をやってベンチャーを興そうという雰囲気は一部のところではかな り高いのです。実は京都リサーチパークは、そういう大学研究者が会員 として千人ぐらいが会費を出しましたし、中小企業が四百社加わってネ ットワークができたのです。
 一方、立命館大学が生き残り策の一つとして理工学部を拡充すること になりましたが、学生の授業料だけで理工学部の研究を盛んにすること はできない、大いに産学をやろうということになってきました。それか ら、大学の卒業生がやっている会社がサポートしてくれまして、うちで も金を出そうじゃないかという会社がだんだん増えてきました。こうし て、受託研究、共同研究が盛んに行われるようになりました。ところが、 特許を出願するとなると、かなりの手数料がかかります。立命舘大学で はその費用を大学の経費でやるのですが、年間予算が半年でオーバーし てしまう、何とかならないか、という話も出てきました。もう一つの問 題は産業界との共同研究では、特許をどうするかということです。一件 一件産業界と交渉することになりますが、ある会社はものすごくがめつ くて、これは全部うちにいただきます、大学には研究費を差し上げます からいいでしょう、などというところもある。だれのアイデアで特許が 取れたのかというのは、共同研究ではあいまいになってきます。産業界 の人はうちのアイデアだと言うし、先生は自分のアイデアだと言う。そ ういうことで、大学として規則を作ったのですが、その規則がそのまま 産業界に適用できるわけでもない。結局、その都度交渉しなければなら ないわけです。
 そういうことでやっている間に、京都大学ではベンチャービジネス・ ラボを立ち上げました。ちょうどそのころ、通産局からもいろいろ話が ありまして、TLOの法律もできることだし立ち上げようかということ で、立命館大学でその話に乗ったわけです。京都大学のほうは、大学と してまとまってTLOをやるわけにはいかない。有志でやりたいが、そ れでは力が弱いので、一緒にやりましょうということでした。そこで、 京都大学の有志(七十六名)と立命館大学と京都リサーチパーク(KR P)とでやることになりました。そこへ大阪中小企業投資育成株式会社 も参加してくれることになり、その四者が主になって、関西ティー・エ ル・オーが立ち上がったのです。
関西TLO

 まだ弱体ですが、特許については関西一円の大学を全部含めたら相当 の数が出てくるから、その中からいいものをセレクトして特許を取ると いう方向にいっています。関西一円という地域を対象といたしましたの は、一つの大学だけよりも多くの特許を取り扱うことができ、本業化の 機会も増えるであろうし、ティー・エル・オーとしての効率化、大学の 負担軽減にもつながるであろう、という考え方です。そして実用化に向 けての活動はかなりうまくいくのではないかという思いがあります。

西村 どうもありがとうございました。最後になりましたが、日本大学 の在総長、お願いします。

 本学では昨年、日本大学国際産業技術・ビジネス育成センターを オープンしました。頭文字をとってNUBIC(ニュービック)と呼び ますが、これは全学をあげての組織で、このような組織はわが国で初め てであります。現代は国際化と情報化がベースとなって、あらゆる学問、 あらゆる産業が大変革を遂げつつある時代です。大学もその例にもれず 変革しなければなりません。私は三年前に総長になりまして、日本大学 未来創造プロジェクトを作りまして大学に関する重要項目を諮問し、そ れをいま実現しつつあります。そして、TLOも日本大学未来創造を見 つめた中で取り組んでいこうという立場です。TLOだけを一つぽつん と立ち上げるというのでなく、それをサポートする組織を構築してきま した。
 ニュービックの設立の経過を申し上げますと、一昨年の秋にAPEC が日本大学の中で行われたことが、大きな契機となりました。APEC の会議で技術移転の問題が真剣に討議されました。そして、日本大学の 中に産官学の協力のもとにビジネス育成センターを作りたいということ が出てきたわけです。それを基にしながら、構想がしだいに醸成されて、 法案が通ったらいつでも出そうという準備を進めていました。
 TLOの仕事をするプロセスで考えなければならないことは三つあり ます。第一は研究開発と技術移転、第二は特許の法的手続き、第三は市 場性ということ。この三つを考えたとき、日本大学の総力を上げて取り 組めば、国内ばかりでなく国際的にも十分にその力を発揮できるものが 出てくるのではないかと思いました。 まず第一の研究開発・技術の問題に関しては、日本大学にはすべての学 問領域をカバーできる十四の学部があります。大学院には十六の研究科 があります。理系、医歯薬系に限らず三千人以上の研究者がいます。そ の知的財産をもってすれば、あらゆる分野に対応できるわけです。実は 平成八年度の実績ですが、委託研究が二百九十四件ありました。第二の 特許の手続きに関しては、法学部、商学部、経済学部があり、弁理士や 法律学者がいて、それに対応できます。第三の市場性については、大学 は慣れておりません。これは、大和総研さんにご協力をお願いしました。 大学ができない市場性を十分調査していただいて、本当の意味での産官 学という構築のもとでセンターを創ったということです。なお、第一の 技術に関しては各学部から百人の研究者に参画していただいて、技術評 価を行うことにしています。
NUBIC

 さらにそれをバックアップするOBが八十三万二千人もいます。そし て、二万七千人の本学出身の社長さんがいて、それは、大変な財産です。 特にこのような仕事をしていく面では、豊かな資源になると思います。  同時にまた、多くの方々にこのようなさまざまな情報を提供するとい うことで、ニュービック・ベンチャークラブというものを作りました。 これは一般会員と特別会員とがあり、一般会員は個人、特別会員は一般 的には会社が会員です。比較的安く会費を設定しました。
 このニュービックの本日までの特許申請は、学内の研究者から相談を 含め二十二件、すでに出願に至ったものとして五件、契約に至るものと して三件ということで、着々とその成果が出始めてきています。
 いずれにしても私どもの概算では、七年間で累積収支がプラスになる と考えています。出願は七年間で約千件を予定しています。そのなかで 実際に契約に至るものは一○%前後、百件と考えています。私どもは世 界のいろいろなところへ行って調査しました。
 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、UCLに有名なビジネススク ールとザ・ベンチャーというベンチャー企業をやっているところがあり ます。イギリスでは学問的にはオックスフォードとかケンブリッジとい うことになっておりますけれども、ベンチャービジネスに関しては、こ のロンドン大学がダントツです。これは日本の通産関係のジェトロにお 願いしまして、徹底的な調査をしていただきました。私がそちらに伺っ たときに、契約してやるのは一○%から七%ぐらいだと言って、やはり 日常の作業が大変だと言っていました。彼らはイギリスだけではなくて、 世界を巻き込んでやっているわけです。日本の企業もそのなかに入って いると言っていました。
 日本大学は、ビジネススクールが認可されまして、今年の四月に開設、 九月から授業を開始します。自慢するわけではありませんが、日本で初 めての本当の意味の国際的なビジネススクールで、先生も半数以上が外 国からです。
 フランスのインシアード、それと英国のロンドン・ビジネススクール、 オックスフォードから来ます。アメリカからはハーバード、MIT、ウ ォートン・スクール。またアジアからは三十年前にできたフィリピンの ビジネススクールからも来ますし、オーストラリアからはクィーンズラ ンド大学からも招きます。
 このようにグローバルなビジネススクールとは本来こうでなければい けない。そのようなことから私の大学のビジネススクールはグローバル ビジネススクールと命名しました。
 ニュービックもまたすべての産業界に対応できるビジネス育成センタ ーと言えるようでなくてはいけないと思っています。
 それで初めて日本だけではなくて、国際的にも対応できる産業技術ビ ジネス育成センターを作ったということです。

このページの先頭へ

現在の取り組みと今後の展望

西村 ありがとうございました。続きまして、今後TLOの活動をどう 展開していくか、お話ししていただきたいのですが、まず、本部課長か ら他大学の状況とかアメリカの例も交えながら、お願いします。

本部 本日お集まりの大学は、最初のTLOとして承認されています。 この四大学に引き続いて、承認の準備をされているところは、筑波大学、 早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学などがあります。その他では、 工学部だけが集まってグループを作って議論したり、地域で検討したり されているようです。後に続くグループはたくさん出てくると思います。 われわれが一番期待しているのは、それぞれの経営基盤が安定化してい くことです。これは当然難しい課題であり、通産省としてもさまざまな 助成制度を考えていかなければならないと思っています。例えば、税制 の面とか、特許の取り扱いなどについても議論されるべきだと思います。 たまたま、今年はこれから特許法の改正法が国会にかかりますけれど、 その改正事項の中に中小企業のディスカウントというのが入っています。 これは設立されて間もない企業というのは特許を維持していくことが大 変だという認識に立って、中小企業ディスカウントということをやるも のです。こういうアイデアをTLOに適用できないかという議論を通産 省でやっています。つまり、設立当初の採算性が厳しい段階にあるTL Oについて特許の維持費用の減免ができないかという議論を行っていま す。いずれにしても、早い段階で技術移転がされて、それが成果として 目に見える形で出てくることが、後に続く大学にとっても、われわれ支 援する側にとっても大きな励みになるのではないかと思っています。そ ういう意味で、TLOについては助成金の交付、特許技術アドバイザー の派遣など、いろいろな形で協力させていただきます。
 なお、今年のAUTMの「ライセンシング・サーベイ」などを見まし ても、現実にライセンシングされている特許のうち六割から七割がライ フサイエンス関係の特許です。その他の調査においても、大学側からた だちに産業界につながっていきやすいのは、ライフサイエンス、バイオ といった技術ですので、そういった面では具体的な成果が上がりやすい のではないかと期待しています。そして、それが少しでも早く社会に見 える形で出てきてほしいというのが正直なところです。

西村 ありがとうございました。では、TLOがスタートしてまだ数カ 月しか経っていませんが、各TLOの皆さんに取り組みの現状と今後の 展開についてお話ししていただければと思います。

 取り組みはいろいろありますが、この一カ月では、ニュービック のお披露目ということで、一月に開設記念講演を行いました。講師とし ては、元アメリカ国防省の研究所の戦略部長で、世界で初めてインター ネットを作られたフランクリン・クオ先生、イギリスのユニバーシティ カレッジ・ロンドンのクリススターン教授をお招きして、お話ししてい ただきました。これには、私どもの予想をはるかに超える多くの方が来 られました。通産省の方々や日本を代表するベンチャー企業の社長など が来られまして、非常に関心をもたれていることがわかりました。これ は私どもがこれからやろうとしていることが社会に受け入れられるとい うか、社会がそれを求めているということだと思います。
 そんな中で、実はこれから対応していかなくてはならないことがいく つも出てきています。本部課長のお話のように、これからの経営基盤を どう安定させていくかということでは、例えば特許の問題にしても、委 託研究にしても、税制上すでに私学と国立大との格差があります。これ はなるべく早く解消していただくように、お考えいただきたい。それと、 非常に大事なことは、産業人の意識、価値観というものが次第に国際的 なレベルになっていくことへの対応だと思います。例えば、アメリカで はベンチャーで成果が上がると、その会社の株が高くなる。すると、そ の株を売ってしまう。そして、その利益をもとにまた次なる自分の考え でベンチャーをやる。そういうことが次々と行われています。そのよう なカスタムが日本で醸成されていくということが、これからの日本の大 きなテーマだと思います。それによって、ベンチャーというものが、ま すますいいものになっていくと私は思っています。

西村 関西ティー・エル・オーの大野社長お願いします。

大野 現在の活動状況は、発足してから実際に活動を開始したのが今年 になってからなので、大したことはできていませんが、特許になりそう だというシーズの発掘が十二件あります。その中で三件が手続き中です。 あといくつか出てくると思いますので、今年度中に十件ぐらい申請でき ないかというのが希望です。ただ、問題は手元資金がそう多くないもの ですから、特許をたくさん取ってくれと言われても、取りようがないん です。これは相当セレクトしなければならない。これは技術評価委員会 でやることになっていますが、今のところは呼び水的に多少甘くして取 っていこうということでやっていますが、そのうちに相当厳しくして、 これならいけそうだというものを取っていきたいと思います。
 ある先生の研究はまだ特許を取っていないのですが、その内容をすで に察知して、うちでやりたいと外国企業からアクセスしてきているもの があります。こういうのが非常に悩ましいのは、うっかりすると特許を 取る前に向こうで取られたりすることがありまして、秘密保持の問題が からんでくることです。また、ある先生からは三月にこういう発表をす るから、それまでに何とかならないか、という相談を受けました。その 先生はある会社に相談したのですが、その会社が秘密を守ってくれるか もよくわかりません。そこでティー・エル・オーの会社の方で巧く対処 してほしい、というわけです。それから、ソフトウエアの著作権のこと も持ち込まれています。個人的にやると問題が起きるので、ティー・エ ル・オーでやってくれないかという相談ですが、これはある会社と契約 が進みつつあります。こういうこともやっていきたいと思っています。 また、「技術情報クラブ」をつくって技術移転と情報交流の場を用意し ております。研究者の会員がまだ二百名に達していませんが、これを五 百名ぐらいにしようと思って努力しています。企業会員も二百社を目標 にしています。これは、不況ですので一年ぐらいはかかるでしょう。  特許の発掘や企業への特許利用の推進、調整の仕事にテクノマートか ら特許流通アドバイザーを二名派遣していただいておりますが、すでに、 京都大学はじめ、各方面に出かけていただいております。
 アメリカでもTLOが自前でやれるようになるのに十年以上かかって います。日本ではもう少しかかるかもしれません。ただ、世の中の状況 が変わっているので、もっと早く独り立ちできるかもしれませんが、十 年ぐらいかかることを覚悟してやらざるを得ない。それまで会社が保つ ためにはどうするか頭を痛めていますが、これはお役所にもいろいろお 願いしなければならないところがあると思いますので、よろしくお願い します。目標としては年間五十件ぐらいの特許を取るところまでいきた いと思っています。ただし、申し込みのほうは百件をはるかに超しそう なのでその態勢を整えているところです。

西村 キャスティさんの方はどうですか。

佐野 現在の活動状況ですが、キャスティは昨年八月三日に設立されま して、一番長く営業活動をしているわけですが、われわれがお付き合い する方々は大きく二つありまして、一つは大学の先生、これは発明の発 掘関係です。もう一つは産業界の方々です。これを分けてお話ししたい と思います。
 まず、大学内のネットワークをいかにして広げていくかという課題で す。それには、キャスティを大学側から支援していただくという意味で、 学内に持ち株会組織、キャスティ同友会を組織しようとしています。そ こに大学の先生が気楽に参加できるような研究室を作って、大学内の賛 同者を増やしていけばよいと考えております。
 発明の発掘は、もっぱら草の根的に活動しています。発掘担当の技術 スペシャリストというものがおりますので、研究者のネットワークを頼 りに、いい発明をなるべく効率よく見つけていくという活動を中心にし ています。発掘の件数は申し上げられませんが、かなりの数が上がって きていまして、あとは経費の問題で予算と見合いながら、徐々に出願し ているような状況です。
 もう一つ、産業界の方ですけれども、会員制を採っていますので、会 員の勧誘活動が非常に大きなウエートを占めています。八月以来勧誘を 進め、十二月から会員サービスを開始しました。当初の目標を二十社と したのですが、まだ目標には達していません。やはり不況が響いていま す。
 すでに会員企業に対する特許情報の提供も開始しておりまして、開示 した案件に対する企業側の評価について現在聞き取り調査をしていると ころです。
 次に、将来展望ですが、いろいろ企業を回ってみますとやはり発明の 情報を紙だけでもらっても、技術移転の実効性という面では懐疑的な企 業が多いのが現実です。実際、私もそう思います。ですから、現実問題 としては特許を呼び水として研究者と企業を結びつけていく、その中で 本当の技術移転が行われる、ということになるのだと思います。TLO の役割は、そこにいかに付加価値をつけていくか、技術移転・産学連携 に新しい切り口を提供できるかということです。そうでなく ては会員企業に会費は払っていただけないのです。つまり企業には大学 とのつきあいについて既存のシステムがありますので、国立大のTLO はそれを前提にして、独自のコンサルティングサービス、大学の研究者 とのよきつなぎ役となって、企業に価値を認めていただくことが大切で はないかと思います。

西村 最後になりましたが、東北テクノアーチさんはいかがですか。

渡邉 われわれがやろうとしていることは、一番の課題はやはり大学の 先生たちの特許を援助するというか、お手伝いをして特許を取ってもら うことです。そしてその特許を企業にトランスファーして、企業でもラ イセンスを今度は大学の方にフィードバックしてもらう。それで新しい 研究につなげてもらう。それがわれわれの本来の目的です。そういうこ とで、いま特許の移転の運動をやっています。これは実際に始めたのが 今年になってからで、いろいろな問題が出てきています。一番悩んでい るのは、さまざまな問題を処理しながら、どういうふうなルールでさば いていくかというルールづくりです。
 おかげさまで、特許の方はスタートしてから十数件の特許がわれわれ の手元に来ています。それをいま、それなりの企業へトランスファーし ようと話を進めています。この仕事をやっていて一番われわれが気を遣 うのは、特許の守秘義務ということです。すべてが秘密ですので、発明 者と企業との間に立ってやっていることそのものが非常にやりにくいこ となのです。そこで、知的財産評価委員会を作り、学外から二人の弁理 士もはいってもらい評価判定をやってもらうことにしました。ところが、 それをきっちりやることは大変難しいことで、これからのTLO活動の 一つの問題として残るのではないかと考えています。
 特許の価値を評価して、それを積極的に企業に売り込むには、マーケ ティングの能力が必要です。要するに専門家でないとそういう仕事はで きない。結局、アウトソーシングという制度を利用しなくてはいけない、 ということで、われわれもそれを取り入れてやろうとしています。  それから、特許のことだけで会社を運営していくことは非常に難しい ものです。おかげさまで、われわれは東北通産局のバックアップをいた だきまして、調査業務を引き受けまして、テクノアーチで取りまとめて いくような仕事もやっていこうとしています。もう一つは、東北大学の ニッチェ(未来科学技術共同研究センター)の先生とタイアップして研 修会を開くなどして、会社の運営費を稼いでいくというようなことも考 えています。実際にわれわれが特許で飯を食っていけるようになるまで には、五年ぐらいかかるだろうと思います。
 これから本格的にTLOを展開していくのに一番気を遣っているのが 会員制の問題です。東北地方は中小企業が非常に多いものですから、そ ういう中小企業の人たちに会員になってもらわなくてはいけない。そう すると高い会費は無理ですので、安い会費でということになります。そ のときに、大学の情報をどの程度まで公開できるか、そのあとの展開を どういう形でやっていくか、そのときのペイをどういうふうに考えてい くか、その辺を詰めて、できれば四月から会員制を実施していきたいと 考えています。

西村 どうもありがとうございました。先ほど、本部課長から、TLO ができたので早く成果を出したいという話がありましたが、特にライフ サイエンスの分野で期待できることはどんなことでしょうか。在総長 いかがですか。

 そうですね、医歯薬系、生物資源科学といったところでしょうか。 日本大学では、生物資源科学部というのは農学部のことですけれど、も っと広い意味の生物資源科学です。実際、特許ということになりますと、 医学部、生物資源科学部、薬学部といったところが多いです。
 少し話はそれますが、TLOは国際的に大変なテーマでグローバルに 進行しているのですけれど、社会主義国の中国においても北京大学の中 にTLOがあります。「北大維信」という会社ですが、さまざまなもの を研究し、その研究成果を技術移転しようと積極的にやっています。私 は医師なので北京に行ったとき、向こうの副学長から高脂血症のいい薬 を作ったが、日本で売ってくれないか、日本で特許を取ってくれないか、 という話をもちかけられました。旧ソ連へ行ったときも、科学アカデミ ーの友人から日本でこの特許を取ってくれと依頼されたこともあります。 社会主義国でも進んでこのような対応をしているところに、この問題の 将来性があると思います。さまざまなことで法律の改正その他も対応し ていかなければいけない面もあります。日本大学でもTLOを発進させ るために、学内のいろいろな内規を改正しました。例えば、大学での研 究成果はすべて大学とニュービック(国際産業技術・ビジネス育成セン ター)に属することにしました。
 しかし、特許がとれたときには、研究者に対しては五〇%、センター には一五%、大学の本部に一〇%、学部に二五%という割合でそれを分 けていくということで、いまその支払い作業が進行しています。
 このように研究者にかなり厚い対応をすることで、学内の研究者の意 欲・活力が次第に出てくると思いますし、また関心も高まってくるでし ょう。関心が高まらなければ無用の長物になってしまいますから、学内 の対応をしっかりやり、政府レベルの対応もいろいろな面でお願いした い。そしてやがて国民の意識が変わっていけば、しめたものです。

このページの先頭へ

現状に見る諸問題とその解決策

西村 本日お集まりいただいた四つの機関はわが国を代表する技術移転 機関で、これからの日本を引っ張っていくTLOに発展されると思いま す。まだまだ議論は尽きませんが、時間の制約もありますので、最後に 本部課長に本日出てきました問題点に対するお考えや感想などをお話し いただいて、まとめとしたいと思います。

本部 一番簡単なところからいきますと、先ほど大野先生からソフトウ エアの話がありました。実は大学等技術移転法の草案を書くときに、ソ フトウエアをどうするか文部省や法制局とも議論したのです。著作権に は、特許には存在する「受ける権利」がないものですから、私どもでは 今回の法案の直接の対象とはしなかったのです。しかし、基本的にはソ フトウエアの産業界への移転も同じ理念のものですから、当然扱ってい いのではないかと思います。
 二つめの問題点は、実は四つのTLOに引き続いて十以上のTLOが 発足するので、早晩、会員制度というものの限界にぶち当たるのではな いか、ということです。つまり、全部のTLOが会員制度を採用すると いうことになると、同じ企業が複数のTLOに会費を払わなくてはなら なくなる。その点を危惧するのです。
 これまでのお話を聞いていて、四つのTLOの悩んでおられることは ほとんど同じだと思いました。実はアメリカにはそういう悩みを議論す る場があります。AUTM、アソシエーション・フォー・テクノロジ ー・マネージャーというTLOの相互団体のことです。通産省としては、 四つのTLOの皆様が合意されなるべく早くこうした組織、つまり日本 版AUTMが立ち上がればと期待しております。そこでお互いの問題点 を議論したり、ライセンシングの成果についても、どういうときにうま くいったとか、悩みだけでなく良かった点を話し合ったり、企業を紹介 し合ったりして、お互いに連携するのは非常に意義のあることだと思い ます。
 三つめは、スペシャリストの育成ということが出てきましたが、これ はどうしてもやらなければならないことだと思います。そのためには、 TLOのスタッフがアメリカへ数カ月出かけて行って、向こうのやり方 を学んでもらうというようなこともやりたいと思います。その際、東北 大学から行ったから東北大学だけでその成果を利用するというのではな く、日本版AUTMの活動を通じて全国の大学にご利用いただく。この ようなことを、専門領域別に早くやっていきたいと思います。
 四つめは、大学からの特許の問題です。これは別途われわれもサーベ イしているところなのですが、私の手元にある資料を見ましても、例え ば東大の生産研の研究者から生まれた研究成果だけで企業の名前で取ら れている特許は三千件以上あるのです。その三千件の特許が本当にどれ だけ活用されているかというと、疑問がある。もし当該企業では活用の 道がないが他の企業でなら活用可能な特許が相当数存在するとするなら、 こういう特許については、すでにお取りになっている特許を企業からT LOへ返していただくということも十分あり得るのではないかと考えて います。一方で企業の期待ということも考えなければならない。これま で大学の研究は基礎的な研究に偏っていたと思います。これからはもっ と将来活用、利用の可能性が高い研究に移っていく。そういう意味で企 業の期待が高まっていると思います。早く成果を出してほしいと申し上 げたのは、いまTLOはマスコミにも注目されていて、このタイミング で早く成果を出していけば期待に応えることができ、さらに企業に目を 向けていただけるからです。その点のご努力を期待したいと思います。

西村 どうもありがとうございました。時間の制限がありまして、本格的 な議論にいたりませんでしたが、このへんで終わりたいと思います。

石井広報部長 本日は大変有意義なお話をいただきまして、誠にありがとうござい ました。各先生方が取り組まれたTLOの設立へのご苦労や組織の特徴、 現状や将来への展望など、本学のTLOのためにも大変参考になりました。 皆様の今後のご発展をお祈りして、本日の座談会を終わらせていただきます。

このページの先頭へ

(文責・広報部)

<戻る
All right reserved (C) Copyright: 1998- NUBIC