血液凝固第9因子(F9)は他の凝固因子に切断されると活性化し、血液凝固を進めることが知られている。
我々はこれまで機能が知られていないF9が切断された後の血液凝固に関与しない部分であるF9−APに血管内皮細胞に働き、血管透過性を抑制する機能があることを発見した。
循環障害が起きて組織の酸素濃度が低下すると、機能が低下し、やがて不可逆的な障害を受ける。
これまで循環障害やそれに合併する低酸素症の主な治療ターゲットとして研究されてきたのは心臓や太い動脈であった。
ガス交換に関与する毛細血管や、さらにその先の組織に対する治療薬には有効なものは少ない。
例えば、肺水腫は、肺血管内皮細胞のバリア機能が低下し、血液中の水分が肺間質中に漏れ出た状態であり、肺でのガス交換が障害されて低酸素血症をきたす。
心不全や敗血症などは原因疾患の治療が最も有効であるが、その治療に苦慮することが多い。
脳梗塞モデルマウスの血流遮断後にF9−APを静脈内投与したところ、血流遮断後30分でF9-APを使用した場合は、1mg/kg以上の濃度で脳梗塞縮小作用が最大になった。3mg/kgのF9−APは血流遮断から6時間後の投与でも有意に硬塞巣を縮小した。
マウスに大腸菌由来毒素(LPS)を静脈内投与して肺血管透過性を亢進させた後、体重の20%の生理食塩水を静脈内投与して低酸素血症(酸素飽和度94%以下)モデルを作成した。
生理食塩水を静脈内投与する1時間前に300 mg/kgのF9−APを静脈内投与した。
コントロールでは酸素飽和度が70%以下になったマウスは即死した。一方、F9−APを投与した群では、15頭中6頭が酸素飽和度70%以下でも生存した。
【凝固反応を伴う循環不全が関係する病態】
敗血症、播種性血管内凝固症候群、急性呼吸窮迫症候群それらの原因である感染症、重度外傷と熱傷、急性白血病、急性膵炎、産科疾患
【局所の虚血がおこる疾患】
脳梗塞、心筋梗塞、腎梗塞、外傷や二次的に起きる浮腫、事故や疾患による低酸素脳症
【細胞膜ホスファチシ゛ルセリンの細胞外への露出抑制】
抗血小板作用、抗リン脂質抗体症候群
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