ヒト遺伝子多型において一塩基多型(SNPs)は最も頻度が高く,疾病リスク,薬剤代謝等と密接な関りを持つことが知られている。我々は,この一塩基多型を迅速かつ簡便に検出できる手法の構築を目指して塩基識別型蛍光性核酸塩基(BDF塩基)を開発し,これをハイスループット性に優れるDNAチップへと応用する研究を行っている。
BDF塩基は,相補鎖側の塩基の種類によって蛍光発光を鋭敏に変化させる修飾塩基であり,相補塩基がマッチの配列の時に強い蛍光を発し,ミスマッチの時には発光しない性質を有する。
従来のDNAチップによるSNPs検出では,標的DNAの蛍光標識化やハイブリダイズ後の洗浄等が不可欠であり,その条件により結果のバラつきが大きくなるという問題があったが,BDFプローブを用いればそれらの工程は一切不要となる。
この特性を用いて,より簡便で高感度なDNAチップの開発を行うことを目的として研究を行っている。
DNA二重鎖の外側は水に囲まれた極性環境下であり,内側は塩基対が並んだ疎水環境下である。BDF塩基の相補塩基がマッチの時は,相補塩基とBDF塩基との間で水素結合が形成され,溶媒効果の大きい系高分子(ピレン)がDNAの外側の極性環境下に押し出されて発光し,ミスマッチの時は,系高分子が塩基間にインターカレーションして疎水環境下に移動して消光される。これにより相補塩基の種類の識別が可能である。
このBDFプローブを用いて液相系(ホモジーニアスアッセイ系)でのSNPs検出について検討を行った。また,同時にBDFプローブをキャプチャーとして用いたDNAチップ(BDFアレイ)を作成し,従来のDNAチップとSNPs検出精度についての比較を行った。
結果は以下の通りとなった。
1) 液相系で精度よく,容易にSNPs検出が可能である。
2) BDFプローブを搭載したDNAチップは,従来のDNAチップより高精度でSNPs検出が可能である。
3) 従来のDNAチップと異なり,標的DNAの蛍光ラベリング,ハイブリダイゼーションの条件検討,ハイブリダイゼーション後の洗浄が一切不要である。
DNAチップ,SNPs検出チップ,液相系での高精度のSNPs検出,細胞系における遺伝子検出,SNPs検出
同じカテゴリーのお知らせ
組換えBCGとDNAワクチンのプライムブースト接種法による新規ワクチン開発(12044)
組換えBCGとDNAワクチンのプライム組換えBCGとDNAワクチンのプライムブースト接種法により,従来より効果の高いBCGワクチンを開発しました。この手法の応用により,感染症に対応可能な社会の実現を目指します。ブースト接種法により... 詳細を見る
脱炭素&低コストで植物の生育・開花促進根域環境制御装置-N.RECS(12516他)
植物の根の領域(根域)の温度を制御できる根域環境制御装置(N.RECS)を開発しました。この装置は根域温度を一定の範囲に制御し,冬季の省エネルギー栽培と夏季の高温対策に大きく貢献します。現在,この装置と蓄熱槽を一体化した,再生可能... 詳細を見る
養殖魚を対象としたゲノミクス研究とその応用養殖魚の品種改良(研究紹介)
養殖魚の様々な経済形質に関連するDNA多型をゲノムワイド解析により特定し、養殖魚へ応用するための研究をしています。これまでに、高成長系統、耐病性系統、全雌生産などを実用化しています。 詳細を見る