血液凝固第9因子(F9)は他の凝固因子に切断されると活性化し、血液凝固を進めることが知られている。我々は、この切断により切り出されるペプチド(F9-AP)が様々な細胞に働きかけ、細胞を伸展させることを発見した。血管を構成する細胞の伸展は、細胞間接着を強化し、細胞遊走を抑制し、結果として血管バリア機能を強化する。
脳の血管には、血液と神経組織との間で水や物質の交換を制御するバリア機能(血液脳関門)がある。血液脳関門は、神経機能の維持に必須の機能である。近年、中枢神経組織の傷害時に傍細胞がはたす役割が注目されている。傍細胞は外傷をうけた時に、周囲組織の傷害部へ遊走し、傷を塞ぐ肉芽組織の形成に携わる。この現象は創傷の治癒に貢献する一方、周囲組織での脳血液関門を損なう可能性がある。
脳外傷モデルラットにF9-APを連日静脈内投与したところ、外傷後24時間後の脳浮腫が改善し、移動能力は長期にわたって有意に改善した。
また、脳梗塞モデルマウスを作成し血流遮断後にF9−APを静脈内投与したところ、血流遮断後30分でF9-APを使用した場合は、1mg/kg以上の濃度で脳梗塞縮小作用が最大になった。3mg/kgのF9−APは血流遮断から6時間後の投与でも有意に梗塞巣を縮小した。
【凝固反応を伴う循環不全が関係する病態】
敗血症、播種性血管内凝固症候群、急性呼吸窮迫症候群、それらの原因である感染症、重度外傷と熱傷、急性白血病、急性膵炎、産科疾患
【局所の虚血がおこる疾患】
脳梗塞、心筋梗塞、腎梗塞、外傷や二次的に起きる浮腫、事故や疾患による低酸素脳症
【細胞膜ホスファチジルセリンの細胞外への露出抑制】
抗血小板作用、抗リン脂質抗体症候群
同じカテゴリーのお知らせ
ミツバチを救うチョーク病の特効薬(12551)
チョーク病(届出伝染病)は、セイヨウミツバチの幼虫がかかる病気で、採算性が落ちる真菌感染症です.チョーク病の対策に本研究が役立つ可能性があります. 詳細を見る
アミドとペプチドの新しい合成法を提案グリーンケミストリーに貢献(12543)
高い触媒活性と基質選択性を特長とするアミド及びペプチド結合形成反応における新しい触媒を開発しました。 効率性と環境調和性を兼ね揃えた新しい合成プロセスを提案します。 詳細を見る
免疫チェックポイント阻害がん治療ワクチン~抗体医薬に代わる次世代ワクチン~(12483)
標的分子の特定の部位(エピトープ)への特異的な抗体産生を誘導するワクチン作製技術を開発した。 この技術を用いて抗体医薬に代わる安価なワクチンを提供することで医療SDGを実現します。 詳細を見る